開業ナースA   ケアで起業

                        シルバー新報 1999/06/04

  神奈川県藤沢市で看護婦の菅原由美さんが設立した有限会社
「ナースケア」は、看護だけでなく「介護」も提供する会社だ。看護
婦が介護を事業化する例はけっして珍しくない。しかし、今菅原さ
んは思わぬ制度のカベにぶちあたっている。
菅原さんはこれまで、看護婦の資格を持ちながら結婚や子育てで
家庭に入ってしまった元看護婦のマンパワーを、増え続ける訪問
看護のニーズに結びつけようという訪問ボランティアナースの会を
組織してきた。
お年寄りや障害者、24時間休む間もなく介護をする家庭を支える
ための会員制の有償ボランティア団体だ。
 サービス提供者の登録者は約40人、うち9割が元看護婦となっ
ている。「在宅看護で必ずしもハイレベルの看護技術だけが求め
られるわけではない。家族が必要としているのは、看護の延長に
ある介護や家事援助だったりということも多い。それを元看護婦た
ちが手助けすることができないか」草の根的な会の活動は2年前
から。そこに介護保険の施行が迫ってきた。これまでボランティアで
行ってきたことを事業化するチャンスだ。NPO法(特定非営利活動
促進法)の制定に伴い、NPO法人格の取得に向けて議論を重ねた。
しかし、NPO法人を設立して積極的な事業展開をするという結論に
は結局、至らなかった。会では、あくまでもボランティアでという考え
方の人が多かったからだ。
 そこで、有償ボランティア団体として今まで通り活動ができる会そ
のものを残し、別に介護保険制度をしっかり使える「訪問介護・看護」
の会社を立ち上げた。介護保険から漏れてしまう人や、保険以上に
サービスを求める人などには従来からの民間団体を利用してもらい、
いわば二本立てで在宅を支えようというものだ。
 ところが5月になって菅原さんの構想に行政などから「待った」がか
かった。「訪問介護」のサービス事業者の指定を受けるには、責任者
はヘルパー資格を取得せよという条件が示されたのだ。
 「変だと思いませんか。ヘルパー研修の講師には看護婦も含まれて
いるんですよ。これって形だけ整えればということではないかしら」と
菅原さん。看護婦は処置だけ、ヘルパーは介護、医師は医療、果た
してこのすみわけは利用者にとって意味があるのか、菅原さんは納
得できないという。あるいは、有限会社を立ち上げたが、その組織が
有償ボランティア団体の一部と重複することが問題視されているのか。
 独自のサービス体制を作り上げ、地域に根付いた活動実績を積んで
きた団体が今、岐路に立たされている。
試されているのは制度か、マンパワーか。